※2022年11月25日小池都知事が臨海地下鉄のルート・駅を発表しました。気になる3点(①つくばエクスプレスとの接続②勝どきと晴海が別の駅に③江東区の沈黙)も含めてまとめました。
本ブログ記事:小池都知事が臨海地下鉄の計画案(ルート・駅)を発表

オリンピック選手村を使った再開発プロジェクト、晴海フラッグ(HARUMI FLAG)。この街のことを調べているうちに、新しい地下鉄の計画の存在を知りました。
調べるとその新しい路線「臨海地域地下鉄」が、湾岸エリアの他の2つの新線計画「ゆりかもめの豊洲→勝どき延伸」と「有楽町線の豊洲→住吉延伸」と因縁浅からぬ縁があることが分かりました。
ひじょうに面白かったので、各計画の経緯も含めまとめました。

湾岸エリアの3つの新しい鉄道計画
東京湾岸エリアには3つの新しい鉄道の計画があります。
- ゆりかもめの豊洲→勝どき延伸
- 臨海地域の新地下鉄
- 有楽町線の豊洲→住吉延伸
このうち晴海フラッグに直接影響があるのは①ゆりかもめと②新地下鉄です。ただ、③有楽町線も実は間接的に関係がありました。
それぞれの鉄道を一言(で言い切れてないですが)で表すと次のとおりです。
①ゆりかもめの豊洲→勝どき延伸:
現在豊洲駅が終点のゆりかもめを延伸し、晴海フラッグのエリアを回って勝どき駅まで向かう計画。
1995年のゆりかもめ開業の前から構想があったものの、2013年オリンピック招致のタイミングで、地下鉄新設を狙った中央区から、それを邪魔するものとして目の敵にされ、東京都と国からも見放された悲劇のプロジェクト。
②臨海地区地下鉄の新設:
東京オリンピック開催の決定を追い風に、中央区が大急ぎで計画を練り上げて、東京都・国のお墨付きをもらった鉄道新線界の風雲児。
つくばエクスプレスという強力な仲間(東京駅で接続)を得て採算面が強固に。
晴海フラッグの希望の星。
③有楽町線の豊洲→住吉延伸:
江東区の悲願。
1972年に検討が始まった最古参の計画で、40年以上も経った2018年、江東区が豊洲市場受け入れる条件として、東京都がプロジェクト前進を約束。
しかし東京都は上記新地下鉄のほうが魅力的になってきたのか、突然東京メトロと検討よろしく、と手のひら返し(東京メトロは新線を開発しないと言っているのに)。
江東区は、とうぜん激怒。
事態は膠着すると思われたが、2021年7月の国交省答申で、東京メトロが事業主体・費用は国から支援するという案が提示され、2022年3月に建設が決定、江東区の50年越しの夢が叶いました。
ここからは3つの計画をそれぞれ詳しく見ていきたいと思います。
①見放された悲劇のプロジェクト「ゆりかもめ延伸」

ゆりかもめは豊洲が終着駅ですが、その先は晴海の方に行きたそうに大きく曲がっています。
豊洲から先にゆりかもめを延ばす計画があったからですが、その実現は今や全く見込めなくなってしまいました。よほどの天変地異がなければ計画が復活することはないでしょう。
そうなったのは、晴海を通る臨海新地下鉄計画が主な原因です。そこに至る経緯を見ていきます。
実現したらこんな感じで晴海フラッグ(5丁目)のど真ん中に駅ができたんですね〜

出典:東京都港湾局「豊洲・晴海開発整備計画」
幻の勝どき→東京/有楽町/新橋延伸計画
ゆりかもめは、その開通前の1989年から豊洲より先に延ばす計画があったようです。
この時点では豊洲から勝どき駅まで行く前提で、その先のルート案は3つ。

1つ目は勝どき駅から清澄通りを通って月島まで向かい、そこから東京駅に向かうルート。これが本命だったようです。

2つ目は勝どき駅から晴海通りを通って、銀座を通り、有楽町駅まで向かうルート。銀座のど真ん中を高架で通ることになるので現実には難しそうです。

3つ目は勝どきから晴海通りで築地に向かい、そこから新橋に行くパターン。ゆりかもめを環状線にすることも可能に見えます。
しかし、この3つのプランの検討は予算等の課題が多かったからか、いつしか消え、勝どきまでの方向に変わったようです。
勝どきまでの延伸検討
ゆりかもめはバブルが弾けた1995年に有明まで開通し、その後2006年に豊洲まで延びて現在の路線になりました。
当初から豊洲までの開通は確定。その先の豊洲⇔勝どきの延伸は未確定でしたが、いろんな文書に登場します。
たとえば1990年に東京都が発表した「豊洲・晴海開発整備計画」。現在の豊洲・晴海の再開発方針を決めた文書です。
国際展示場から豊洲を通って晴海・勝どきまで伸びる新交通システム(ゆりかもめ)が描かれています。先の太さが有楽町線と並行する豊洲の先で細くなってるのが、計画の確定度合いを表しているのでしょうか。
次に記載が見られるのが、2000年に運輸省(現国土交通省)が発表した「運輸政策審議会答申第18号:東京圏における高速鉄道に関する基本計画について」。
国として、首都圏の鉄道計画についてどれから優先的に検討・建設を進めるべきか決めた、重みのあるドキュメントです。
優先度はA1、A2、Bと分けられており
○ 目標年次までに整備を推進すべき路線(A)
・目標年次までに開業することが適当である路線(A1)
・目標年次までに整備着手することが適当である路線(A2)
○ 今後整備について検討すべき路線(B)
ゆりかもめの「豊洲⇔勝どき」はこの中でA2と位置付けられているため、Goに国のお墨付きが出た状態です。
そして2001年に東京都が発表した「豊洲1〜3丁目地区まちづくり⽅針」。まだIHIの造船所がなくなる前に、再開発後の豊洲のあり方を決めたものです。

これを見ると、現在の豊洲の街の方向がここで決まったということが分かりますね。
この文書には次の通りゆりかもめに関する記載があります。
豊洲地区は(中略)地下鉄有楽町線により都⼼と直結しているほか、今後、ゆりかもめの豊洲までの延伸(平成17年度)や勝どきまでの延伸(計画)、地下鉄8号線の延伸(北上ルート)(計画)を考慮すると、臨海副都⼼や江東区内の各地区との結びつきが⼀層強まるなど、都市軸の要に位置している。
この後、2006年に豊洲までゆりかもめが延び、その軌道の終点は、将来晴海・勝どきに行くことを考慮し、晴海通りに大きく曲げて作られました。
勝どき延伸への逆風
2010年代になると、ゆりかもめの勝どき延伸に対して逆風が吹き始めます。
要因は2013年の東京オリンピック開催地の決定と、2016年の国交省の首都圏鉄道建設に関する答申です。
前述の2000年運輸省「運輸政策審議会答申第18号」の次の答申として、2016年に国交省から首都圏の鉄道整備に関する答申が予定されていました。
国の方針のため、ここで取り上げられないと、絶対とはいえなくても、ほぼ新線の建設は無理となります。
そんな中、2013年9月に2020年オリンピックの東京での開催が決まります。その時点で、中央区晴海は選手村として活用され、その後は住宅(現晴海フラッグ)とすることも決まっていました。
中央区はオリンピック開催の決定を受け、地下鉄の新線建設を目指すことを決め、2016年の国交省答申に盛り込まれるよう、すばやく動いたようです。
中央区の動き
2013年
- 9月7日:東京オリンピック開催決定
- 9月27日:中央区が東京オリンピック・パラリンピック対策特別委員会設置(以下、オリパラ委員会)
- 10月18日:中央区課長がオリパラ委員会にて、区長名で都知事に出した要望事項に記載した大量輸送機関が地下鉄を想定している旨、回答
2014年
- 2月7日:中央区長が記者会見。「地下鉄新線誘致構想」を発表。中央区独自に地下鉄新線の検討調査開始
- 2月24日:中央区オリパラ委員会にて副区長がゆりかもめの勝どき延伸について「地元にとって何の意味もない交通手段」などと発言
- 12月:中央区が「晴海地区将来ビジョン」を発表。地下鉄は記載あり、ゆりかもめ延伸は記載なし
2015年
- 3月:中央区が「都心部と臨海部を結ぶ地下鉄新線の整備に向けた検討調査」の結果を発表。
- 7月:東京都が「広域交通ネットワーク計画について<交通政策審議会答申に向けた検討のまとめ>」を発表。ゆりかもめ延伸と地下鉄新線は競合するため、ゆりかもめ延伸は採算が取れない、と指摘
⇒これで東京都として、ゆりかもめの延伸を推進しないことが明確に
2106年
- 4月20日:国土交通省が答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」を発表。
2000年の答申にあった「ゆりかもめ延伸」は消え「臨海地区 新地下鉄」が、『国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト』として記載される
⇒これで国としても、ゆりかもめの延伸を推進しないことが明確に
これを見ると、2013年に2020東京オリンピックの開催が決まってから、中央区がすばやく地下鉄新設の調査をまとめ、2016年の国交省答申までに、ゆりかもめ延伸を押しのけて東京都のお墨付きを得て、見事、国からの後押しも得たことが分かります。
主なやり取り
上記にも記載した、オリンピック招致が決まって半年も経たない2014年2月24日中央区東京オリンピック・パラリンピック対策特別委員会での、委員と副区長のやりとりは、ゆりかもめ延伸に対してフルボッコです。私がゆりかもめだったら泣いてます・・・
今野委員
- 風やさまざまな気象条件で運行がとまってしまう
- 現実にまちを分断してしまう
- 勝どきまでしか来ていないということでは意味がない
吉田副区長
- 豊洲から先の路線についての実現の可能性でございますが、基本的にゼロ
- 豊洲から勝どき終点なので、これは委員御指摘のとおり、地元にとって何の意味もない交通手段だというふうに思っておりますし、このことについては、私どもは絶対つくらせないというか、地元の方も含めて、つくらせない決意であるということは十分東京都には申し伝えてあるところでございます
- 豊洲でずっと永遠にとまっていていただきたい
中央区がここまで言うのは、臨海地区地下鉄が、ゆりかもめ延伸と競合するため。
東京都が、競合するどちらかを選ぶときに重視するのは、当然そこに住む住民の意見なので、ここで中央区は住民の意見を強く表明しました。
かくして2015年東京都が発表した「広域交通ネットワーク計画について<交通政策審議会答申に向けた検討のまとめ>」では、下記のような記載がされました。
ゆりかもめ延伸(豊洲~勝どき)と都心部・臨海地域地下鉄構想を整備した場合、東京臨海地域の需要が競合することにより、本検討における試算では、ゆりかもめ延伸(豊洲~勝どき)の収支採算性の確保に課題があるとの結果になった。
臨海地域地下鉄のほうが後から出てきたのに、競合して収支が取れないのはゆりかもめと言われるのは、ゆりかもめにとって忸怩たるものがあるでしょうが・・・
さらにこれを受け、2016年国土交通省答申においてもこれに従い、国としてもゆりかもめ延伸を検討から外すことが決まりました。
これをもって、1990年から20年以上続いたゆりかもめの豊洲→勝どき延伸の検討は、ピリオドが打たれました。
豊洲駅のゆりかもめの軌道終端は、この先も延びることなく、晴海方向を睨んだままとなるのでしょう。

②湾岸エリアの期待の新星「臨海地域 新地下鉄」
オリンピック開催後の人口増加を踏まえて、新たに検討が始まったのが臨海地区新地下鉄。
湾岸エリアの新線としてはだいぶ遅く検討が始まったにもかかわらず、住民の増加と、他の路線との接続をうまく取り込んで、一気に現実味が上がった路線です。
とはいっても開通は2040年ごろの見込み。何が起きるかわからないし、過剰な期待はせず、来たらラッキーくらいに思っていたほうがよさそうです。

出典:中央区「都心部と臨海部を結ぶ地下鉄新線の整備に向けた検討調査」
オリンピック決定前:BRT構想の開始
2013年の2020オリンピック開催地決定に先立ち、選手村予定地の晴海を持つ中央区は、交通網整備に動いていました。
具体的にはLRT(Light Rail Transit:新型路面電車)および、それに先立つBRT(Bus Rapid Transit:次世代型路線バス)の計画です。
2012年9月4日に中央区が発表した「基幹的交通システム導入の基本的考え方」では、将来的なLRTを念頭に、まずはBRT導入を検討することが発表されました。(LRTは地下埋設物の整理などが必要なため、短期に整備可能なBRTから開始)
検討ルートは、有楽町駅を出て銀座みゆき通りを通り、築地に出た後に環状2号に入り、勝どき・晴海に渡ったあとに晴海中心街に向かうコース。

翌2013年4月には中央区住民への説明会も開いています。最終的にはBRTをLRTにして、銀座みゆき通りは歩行者とトラムだけが行き交うトランジットモールにする、という構想です。

実現したらおしゃれでいい感じですね。
結局BRTは速度を優先し、人が通らない環状2号を通るルートとなりましたが。
オリンピック決定後:地下鉄構想の開始
2013年9月7日、ついに東京オリンピック開催が決まりました。
中央区はここで本気で地下鉄新設を目指すことを決めた模様。2年半後の国交省答申に織り込まれることを目指して急ピッチで動き始めました。
まず1年半で区独自で地下鉄整備を検討し、2015年3月に「都心部と臨海部を結ぶ地下鉄新線の整備に向けた検討調査」を発表します。

ルート案は3つ。報告書の中ではどれがいいという評価は下していません。
概要 | 検討課題 | |
Aルート | 晴海通りと環状2号線の間の道路を導入区間とするルート | 新銀座駅(仮)をはじめ、駅設置箇所は道路幅員が狭く、施工難度が高いため、入念な施工検討が必要である |
B-1ルート | 大深度で、概ね晴海通りを導入区間とするルート | 駅部は大断面シールドとするかマルチシールドとするかなどの検討の深度化が必要である |
B-2ルート | 標準深度で、支障物を回避しながら、概ね晴海通りを導入区間とするルート | 首都高晴海線延伸計画と競合しているため、当該計画の変更や廃止が条件となる |
B-2ルート(晴海通り標準深度)は高速道路の計画変更が条件ということで、これは無さそうに読めます。
B-1ルート(晴海通り大深度)だと、日比谷線や高速道路の下に駅ができるということで、駅が非常に深くなり利便性が課題となりそうです。
Aルート(晴海通りと環状2号の間)は晴海フラッグにとって一番近いルートですが、上の道が狭く駅の工事が大変とのこと。
次に気になる駅の配置。報告書には下記の記載があります。
本路線が運行する臨海部においては、河川や運河が多く、限られた橋を渡って移動しなければならないため、中間駅は河川や運河で分断されている地域ごとになるべく1つずつあることが望ましい。
一方、駅数を増やすと、建設費が嵩み、かつ鉄道の表定速度が低下し、鉄道乗車時間が増加するため、可能な限りで駅を統合することが望ましい。また、沿線地域の築地市場跡地等の開発計画を考慮し、まちづくりと連携可能な駅位置とすることが望ましい。
上記を踏まえ、築地地区、勝どき地区、晴海地区、市場前地区にそれぞれ駅を設置して4駅とする場合と勝どき地区、晴海地区を統合して3駅とする場合を検討した。
つまり、住民の利便性を考えると「勝どき」と「晴海」両方に駅があったほうがいいけど、建設費がかさむし乗車時間が長くなるから統合したほうがいいかもなぁ、という感じで、この報告書では両論併記となっています。
晴海フラッグから見ると、当然独立した「晴海」駅ができたほうが近くて望ましい。
でも、もし「勝どき・晴海」統合駅であっても、上記地図のとおりだと、勝どきとの運河の下に駅があるので、勝どきエリアへの橋を渡らなくて済むようになります。
3・24湾岸フィールドワーク 第13回
2001年に建てられた、勝どき地区から朝潮運河を渡って「晴海トリトンスクエア」に向かう歩行者専用橋です(右は黎明橋)。橋の内部には全長94メートルの動く歩道があります。
#湾岸 #地図ラー pic.twitter.com/JvFClJBA0G— 地図ラーの会 (@chiba_chizu) 2019年4月23日
このエリアの橋は、下を船が通れるように高いところに架かっているため、橋を渡るためには結構平地から登らないといけず、地味に疲れます。
統合駅は単独駅より遠いとはいえ、今の勝どき駅に行くのとは違い、橋を渡らなくていいのは結構メリットになりそうです。
臨海地下鉄を東京都と国が後押し
東京都の後押し
中央区の戦略は見事に奏効し、東京都が2015年7月にまとめた「広域交通ネットワーク計画について<交通政策審議会答申に向けた検討のまとめ>」にて、中央区の報告書の内容が無事取り上げられました。

ひときわ目立つ赤い点線が、新たに登場した臨海新地下鉄です。BRTルートと完全に競合しているのに、ちゃんと検討対象となっているところに政治の闇を感じます(笑)
ゆりかもめは、うすーい水色の点線で、豊洲→晴海→ぐるっと戻って勝どきのルートが書かれています。見えるでしょうか?
ゆりかもめ延伸の項で記述したとおり、この報告書で臨海新地下鉄は、ゆりかもめ延伸構想にとどめを刺します。
ゆりかもめ延伸(豊洲~勝どき)と都心部・臨海地域地下鉄構想を整備した場合、東京臨海地域の需要が競合することにより、本検討における試算では、ゆりかもめ延伸(豊洲~勝どき)の収支採算性の確保に課題があるとの結果になった。
国の後押し
こうして東京都のお墨付きを得た臨海新地下鉄は、翌年2016年の国土交通省答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」に無事記載されました。
『国際競争力強化の拠点となる地域へのアクセス利便性の向上に資するプロジェクト』の一つとして、国のお墨付きをもらったことになります。

<6> 都心部・臨海地域地下鉄構想の新設及び同構想と常磐新線延伸の一体整備 (臨海部~銀座~東京)
・東京駅付近において常磐新線と相互直通運転を行う。
【意義】
・国際競争力強化の拠点である都心と臨海副都心とのアクセス利便性の向上。
・山手線等の混雑の緩和。【課題】
・都心部・臨海地域地下鉄構想は事業性に課題があり、検討熟度が低く構想段階であるため、関係地方公共団体等において、事業主体を含めた事業計画について、十分な検討が行われることを期待。
・また、事業性の確保に向けて、都心部・臨海地域地下鉄構想と<5>の常磐新線延伸を一体で整備し、常磐新線との直通運転化等を含めた事業計画について、検討が行われることを期待。
ざっくりいうと、
- 本当に利益が出るか怪しいし、できたらいいな〜段階に見えるから、もっと検討するように。
- 同時に提案が出ていた「つくばエクスプレスの秋葉原→東京延伸」と組み合わせると、相乗効果がありそうだから、直通運転も念頭に検討してね
という内容です。
~(ウ)の取組を-1024x207.png)
上記の通り、別紙に収支等の計算結果がまとめられていました。上段が臨海地下鉄単独の場合、下段が臨海地下鉄+つくばエクスプレス接続の場合です。
右から5列目にNPV(現在価値)がありますが、単独だとマイナスのNPVが、つくばエクスプレスと接続することでプラスになっています。
NPVがマイナスだと事業をする意味がないので、つくばエクスプレスとの接続は実質、絶対条件になりそうです。
国にくっつけられたように見えるつくばエクスプレスとの接続ですが、これは臨海地下鉄にとってもメリットが大きいはず。
経営的に成功しているつくばエクスプレス沿線住民の臨海エリアへの移動を取り込めるので、乗客の増加が見込めるし、なにより東京駅に乗り入れる名目が立ちます。
3年足らずでの超突貫での検討・調整だったということを考えると、2016年の答申で取り上げられ、さらに他の有望路線との接続が推奨された、というのは大成功ではないでしょうか。
臨海地域 新地下鉄に関する報道
2019年3月のFNN報道
上記答申から3年ほど経った2019年3月、FNNが『開通すると何が変わる?「銀座」から「晴海」「豊洲」を結ぶ新地下鉄』という報道をしました。これによると・・・
・3月に東京都が築地市場跡地の活用法に関する資料を発表
・地下鉄新線の構想は、銀座から国際展示場までの5kmを繋ぐ予定
・実際に開通すれば大幅な時間短縮が期待できる
加えて、「東京都から、正式決定の発表はまだないものの、地下鉄新線は2040年頃までの完成を計画している。」「さらに期待がかかるのは、銀座からさらに延伸して秋葉原につなげ、つくばエキスプレスと乗り入れする案や、国際展示場から羽田空港へつなげる案である。ただ、新路線を羽田空港までつなげると予算も倍増するため、課題も残る。正式決定や着工などはまだ先の話のため今後の東京都の動向に注目だ。」と続けています。
・・・この記事をここまで読んできた方は気付きますよね。これは3年前の2016年にすでに中央区・東京都・国の答申で発表されている内容だということ。
個人的には、晴海フラッグの発表を1か月後に控えたタイミングのニュースということを考えると、販売会社側とテレビ局がタッグを組んだ疑いが拭いきれません。
記事の中にこんな記載がありますし、
オリンピック終了後、選手村は住宅街として生まれ変わり、1万2000人規模の街になる予定だという。
東京カンテイ市場調査部の井出武さんは「再開発で非常に生活しやすいという評価を受けたので、ニーズをさらに高めていくという効果が期待できる。ただ鉄道網が未整備なところがあり、それがまさに伸びしろの部分」と話す。
実際、晴海フラッグのモデルルームでも「地下鉄が来るみたいなニュースがテレビで流れてましたねぇ」と言ってたし(故意か否かは関係なく、結果として宣伝に使われている)
一つ新しい情報としては、この報道を受けた2019年4月5日の小池都知事会見があります。(以下引用)
【記者】NHKの成澤です。新しい地下鉄の整備について伺いたいと思います。一部メディアで東京都が銀座から臨海部へ地下鉄を整備して、羽田空港への直結を目指すと報じられているんですが、現時点での調整状況ですね、具体的に実現が見通せている案なのかということと、今後の東京都としての対応をお聞かせください。
【知事】一部報道が出ていたかと思いますが、都心部、臨海地域の地下鉄の構想ですが、この路線は、文字どおり都心部と臨海部とのアクセス強化に資する路線でありまして、その重要性については都といたしましても認識しているところであります。ただ、現在、構想段階ですし、関係者間で十分調整を重ねていく必要がある課題は多々あるわけで、臨海地域での開発動向なども勘案しながら、臨海地域全体の交通アクセスの充実ということに努めていきたいということであります。まだ、整備するという方針は固まったというものではございません。
一方で、臨海地域というのは、やはり交通網がどういうふうに充実するかと平仄を合わせて発展をするものですので、地下鉄8号線の延伸の課題もございますし、これら全体を見ながら進めていくもの、順番にそれぞれの調整を進めつつ、前へということになろうかと思います。
私にとっては「整備することは決まっていません」と言っているだけに見えるんですが、ダイヤモンド社によると、都知事が地下鉄新線に前のめり、と読めるそうです。政治家の言葉は難しいですね。
東京都に地下鉄新線が誕生!?小池知事は前のめりだが実現を阻む難問も
2019年7月のANN報道
2019年7月にはANNからも新地下鉄に触れた報道がありました。今度は晴海フラッグ第1期販売開始の3日前です。デベロッパとテレビ局が組んだ露骨な販売促進、分かりやすすぎ(笑)
このニュースによると
- 東京オリンピックで選手村跡地である晴海フラッグの販売受付が今週始まる。内覧の予約が殺到している。
- 特徴は①価格。付近に比べて1〜2割以上安い。②物件1戸あたりの面積がかなり広く、一番多い間取りが87平米
- 課題は①最寄り駅の問題、歩くと20分ほどかかる。②入居が3年半後
問題はこの「最寄り駅の問題」の中での発言です。以下に書き起こします。
面積あたりが安くても、最寄り駅の問題も。歩くと20分ほどかかるという。
ただ、新交通システム(BRT)の導入が決まっている。
専門家によれば、全く新しい路線も検討されているというが、現実性はあるのか
明らかに、晴海フラッグの購入を検討している人に「地下鉄が来るかもしれない」と期待させようとしているニュースですね。
誰が言っているかをぼやかして「専門家によれば」と逃げていたり、「現実性はあるのか」とかぼやかしたり、セコさを感じます。
きっとこのニュースもモデルルームで「テレビでまた地下鉄が来るかもというニュースが流れてたんですよ」という風に使われるんでしょうね。
※そうだとしても、スタッフの方には他意はないと思います。ニュースが3年前の情報を焼き直しているだけということはご存じないでしょうし、テレビで放映されたのは事実ですし。
それにしても、モデルルーム開場直前の4月と、第1期発売直前の7月に、テレビのニュースを使ってまだ決まっていない新地下鉄建設の情報を流すとは、デベロッパも晴海フラッグの交通問題を相当気にしていること、新しい地下鉄に期待を込めていること、が見て取れます。
東京メトロが主体になる目が消える(2021年7月)
2021年7月国交省の審議会が、東京メトロの民営化で国と都が株式を売却するに当たり、東京メトロの果たす役割をまとめたもので2021年7月に発表されました。
これで有楽町線豊住線と品川地下鉄の建設が実質決まりました。
臨海地下鉄については別の意味があり、東京メトロが臨海地下鉄を作ることはなくなった、ということを意味します。
詳しくはこちら↓
本ブログ記事:「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」(2021年7月)で豊住線・品川地下鉄の建設はほぼ確定
臨海地下鉄の今後
検討開始から3年弱で国の答申に盛り込まれた臨海地域の新地下鉄は、地元の期待が高い路線です。
ただ、2018年の東京都の「鉄道新線建設等準備基金」の対象に選ばれなかったのは国の答申で指摘されている、①自治体を含めた事業計画の十分な検討、②つくばエクスプレス延伸との一体整備の検討、が進んでいないからと思われます。
これら課題の検討を早い時期に進めて、建設が動き出すことを期待します。実現は早くて2040年ころ、でしょうか。



https://mansion.tokyo.jp/rinkai-subway


③江東区の悲願「有楽町線延伸」
豊洲から有楽町線を北上させ、住吉まで延伸する計画が、有楽町線豊住延伸。都市高速線8号線延伸計画とも呼ばれます。
なんと1972年に検討が始まった、鉄道再開発の最古参の一つ。
江東区は東西の移動ルートとしては、地下鉄東西線、都営新宿線、半蔵門線、JR総武線がありますが、南北に移動する鉄道がありません。
これを解消する路線として切望されているのが、有楽町線を豊洲から北に延ばす、豊住線計画。豊洲から東陽町・住吉に向かい、押上までを結びます。
一見、晴海まわりの鉄道計画とは関係無さそうですが、最近になって臨海地域新地下鉄と因縁ができたかもしれません。

1972年からの紆余曲折
豊住線は1972年に国の答申で初めて位置付けられ、1982年営団地下鉄が免許申請までしたものの国の認可が下りることなく、2004年に営団が民営化されました。
民営化にあたり、東京メトロは副都心線を最後に「自分では新しい路線は作らない(整備主体にならない)」と決めました。
そのため東京都と江東区は「整備主体」と「営業主体」を切り分ける「上下分離方式」を検討していましたがなかなか深まらず、いらだつ江東区は、2018年の豊洲市場の移転を受け入れる条件として、東京都に対し上記スキームの確定促進を約束させました。
しかし!2019年3月に東京都が江東区に伝えた回答は「整備、運行とも東京メトロが行うのが合理的」。東京メトロはもう整備主体にならない、と言っているにもかかわらず、です。
ここで検討はほぼゼロクリア。江東区は、東京都が地下鉄整備の道筋を付けると約束したから、豊洲市場の商業施設無しでの転入を認めたのに、と怒り心頭に。
東京都江東区議会は21日、ごみ処理や臨海部開発の特別委員会を開き、豊洲市場受け入れの前提条件と位置づける地下鉄8号線(有楽町線)延伸計画(豊洲~住吉)に進展がないとして、都に抗議する方針を示した。ごみ処理などほかの議題でも都の協議を拒む可能性があるという。山崎孝明区長は「だましうちにされた」と話した。
また、これは前述の臨海地区地下鉄報道と同じタイミングだったため、2019年4月5日の小池都知事会見で質問が飛びました。(以下抜粋)
【記者】テレビ東京の吉田です。地下鉄に絡んでもう1つですね、8号線の延伸について、3月28日の江東区の委員会で、都から、都内6路線のうち、8号線の延伸を一番力に入れて取り組んでいると発言があったと江東区側が明らかにしていますが、これについて、8号線を優先的に取り組んでいくということか確認させてください。
【知事】8号線については、当然、東西線の混雑緩和という一番大きなテーマもございます。それから、今、申し上げましたように、臨海地域の更なる発展ということにも寄与するということから、重要な路線であることには違いがありません。先日、お話ありましたように、江東区議会で、東京都から地下鉄8号線延伸の取り組み状況についてご説明をさせていただきました。そして、事業スキームですけれども、都として、東京メトロによる整備、運行が合理的だという考え方もお示しをさせていただいたところであります。地下鉄8号線延伸事業化に向けては、協議、そして調整は加速をしていきたいと考えております。はい。
【記者】江東区は、この発言で、都は優先的にこの8号線の延伸について取り組んでくれるという受けとめなのですけれども、その辺についてはいかがでしょうか。
【知事】幾つか整理をすべきことがございます。それらも含めてですね、8号線の延伸については、東京都としてもしっかり取り組んでいきたいと考えております。
これを見ると、2019年時点では都としては8号線を優先的に取り組むつもりはなかったようです。臨海地区地下鉄を本命視していたのかもしれません。
2016年国交省答申
建設が決まらない間も、国交省答申などでは取り上げられ続けました。
2016年の国土交通省答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」でも軽鎖あり。

【意義】
・国際競争力強化の拠点である臨海副都心と都区部東部の観光拠点や東京圏東部・北部地域とのアクセス利便性の向上。
・京葉線及び東西線の混雑の緩和。【課題】
・事業計画の検討は進んでおり、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において、費用負担のあり方や事業主体の選定等について合意形成を進めるべき。
さらに、2018年1月に作られた東京都の「鉄道新線建設等準備基金」の対象路線6つのうちの1つに入っています。
2021年急転直下の建設決定
手詰まり感が出ていた豊住線ですが、2021年7月一気に事態が動きました。
きっかけは2020年、東日本大震災の復興資金に国が持つ東京メトロ株の売却益を充てること、そしてその期限が2027年に決まったことです。
今後完全民営化されると、国・都の意見が東京メトロの経営に反映されなくなる可能性があることから、国・都が株式を売却する前に、東京メトロが抱える大きな課題(新線建設)への対応と売却の仕方が合わせて検討され、2021年7月の国交省答申となりました。
この中で、東京8号線と品川地下鉄については、東京メトロが主体となるが、費用は公的支援を行うとうことが示されました。
東京メトロの負担は基本的にないとのことで、これで東京メトロは断る理由がなくなり建設はほぼ決まり。
2022年1月には東京メトロが事業申請をし、3月に国交省が許可を出すことで豊住線の建設が正式に決まりました。
江東区の50年に渡る交渉がついに実りました!
なお有楽町線豊洲駅の真ん中2つのホームは、ずっと前からこんなふう↓に住吉方面にトンネルがあり、建設を待っていました。この先が伸びることになり本当によかったですね。

はたして晴海フラッグに鉄道は来るのか?
「ゆりかもめ」はおそらく晴海に来ることはないでしょう。
「臨海地区地下鉄」は来るのではないでしょうか。ただしいつになるかは、具体的な計画がないため、全く読めません。
一般的に鉄道の敷設は計画3年・建設7年と言われるので早くても2030年ころ、FNNの報道では2040年ころとあったので、いずれにせよ長期的な目で待ったほうがよさそうです。






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